第1章:少年期
第1章:少年期 = ハゲとからかわれ =
「ハゲ!」
「おいこら! そこのハゲ! おまえのことだ!」
「俺の弟がお前のハゲに触りたいと言っているから触らせてやれ!」
私は生まれて初めてその言葉を聞いた。
小学校に通い始めてすぐのことである。
何のことだか、よく分からなかった。
毎日のように上級生が下校時間を待ち受け、数人で私を取り囲むのである。
「ほら、こいつのハゲに触ってみろよ。気持ち悪いぞ!」
「 なッ! なッ! ほらお前も触ってみろよ! ほらッ! なッ!」
弟や近所の子供たちを連れ出して、上級生たちは私の下校時間を待ち受けるのである。
私は幼い時、誤ってイロリに掛かっていた沸騰したナベに頭から落ちたのである。
診察にあたった担当医は開口一番「これはひどい!」と言ったそうである。
それが原因で私の左耳の一部、そして左後頭部には、誰の目にも止まる≪ケロイド≫が残ったのである。
就学前は頭髪を伸ばしていたし、両親も近所の人も気を使い、その事を私には告げなかった。
しかし、就学ともなると当時は頭髪を丸刈り(坊主頭)にしなければならなかった。
悩んだ両親は、先生に頼んで私だけ例外を認めてもらったようである。
しかし、男子児童の中で私一人だけが長髪なので、かえって目立ったと言ってよい。
毎日続くイジメは日を追うごとに激しさを増し、ついには学校内でも≪ハゲ攻撃≫が始まったのである。
こうして私は中学校を卒業するまで、辛く悲しい少年時代を過ごす事になってしまうのである。
特に、異性を意識し始めた中学生時代、女子生徒の前でからかわれた事が一番辛い思い出として残っている。
毎日毎日生き地獄。
ただただ・・・イジメられるためにだけ学校に通う。
こんな馬鹿な話があるものか!!!
こんな辛い思いをしながら生きていてもつまらない。
幼い心の中で死を考えたことは一度や二度ではない。
しかし、それの実践は出来なかった。
心のどこかに「今に見ていろ!」との思いがあったように思えてならない。
もっと言えば、それは具体的ではないが、死ぬことへの罪悪感と両親への想いだったような気がしている。
その両親も今はもういない。
私を育てるにあたり、両親の心情は想像を遥かに超えていたとは思うが、ここには記さない。
私は中学卒業後、私の火傷のことを知っている知人の目を避けるようにして上京した。
NIJI 15歳の春。
第2章:青年期〔生まれた我が子は〕につづく。